なぜフレンチの道を選んだのですか?
かっこいいし、おしゃれだなっていう割と単純な理由です。自分はフレンチにつながりや思い出みたいなものは全然なくて、専門学校に行ってから決めました。専門学校では1年生のときに和洋中をすべて習い、2年生から専門を決めるんですが、一番やってておもしろいなと思ったのがフレンチだったんです。和食は何かをやらせてもらえるまでに10年は平気でかかるし、中華は自分のイメージと違う、ならフレンチだ、っていう。まぁ、現場は全然おしゃれとはいえないんですけど。実際、フレンチを選んだことは間違いじゃなかったと思ってます。
確かに、フレンチにはおしゃれなイメージがありますね。フレンチの道に進むと決めてからは、どうやって経験を積まれたんですか?
銀座の老舗フランス料理店「マキシム・ド・パリ」で専門学生のころから修行を積んでいました。専門をフレンチにしようと決めたときに、自分がやりたいことって何だろう、と考えたんです。するとせっかくフレンチを学ぶんだから、フォアグラやキャビア、トリュフなどの普段扱えない高級食材を扱ってみたいという気持ちが芽生えました。日本でそういった食材を扱えるレストランを探すうちに、マキシム・ド・パリに行きついたんです。ただ、当時は紹介がないと働かせてもらえない場所でした。たまたま専門学校の卒業生がマキシム・ド・パリの支配人と知り合いで、なんとかつないでもらい、面接でOKをもらってやっと働かせてもらえたんです。それが専門学校2年目の夏、友人の中にはすでに就職先へアルバイトへ行く人もいました。自分たちの学年は本気で料理人を目指す人が多かったので、自分も触発されてましたね。学校が終わるとマキシム・ド・パリに行って、ずっと皿洗いです。だんだんと自分にできることを任せてもらえるようになりましたが、葉っぱをちぎったり、海外から仕入れた食材を洗ったりくらい。
専門学校を卒業して正式なキッチンメンバーになってからは、朝は5時55分銀座着の電車に乗って、先輩が来る前にキッチンの準備をするところからスタートです。体育会系の部分もあり、きついし辞めたいと思うことも何度もありました。料理人になっても辞めてく人も多いので、やっぱり好きじゃないと続けられない仕事だなと思いますよ。
決めたことをやり抜く意志の強さがあるんですね。THE GRAND GINZAではどんな仕事を担当されてるんですか?
フレンチレストランのシェフとして、メニューの考案や旬の食材探し、アフタヌーンティーの食事メニューであるセイボリーも作っています。THE GRAND GINZAにはカウンター席のみのハイグレードなコース料理を楽しめる「KIWAMI」、日本の四季を堪能できるフレンチレストラン「THE GRAND 47(ザグランフォーティセブン)」の2つのレストランがあります。自分が担当しているTHE GRAND 47のコンセプトは、日本全国、47都道府県の四季折々の食材を一番美味しい時期に提案し、食を愉しんでもらうこと。老舗や名店が多く、美食家が集まる銀座だからこそ、日本一のおいしいものを届けたいと思っています。その時期の一番おいしいものを届けるために、メニューは毎月変わります。3ヶ月前にはメニューや食材を決めるので、常に先のことも考えないといけない。完全に日本の食材がメインなので、決めた食材が手に入らないときは他の食材に変えることも多いです。思い通りに行かないところが大変ですが、そこがおもしろい部分でもあります。あとは一度決めたメニューでも、もっと喜んでもらうためにはどうすればよいか、といつも考えていますね。
滝田シェフのお客様に喜んでほしい、という想いが伝わってきました。広い店内で来店したお客様全員に喜んでもらえるよう、意識されていることはありますか?
理想のシェフ像は、「自分自身が料理を作らなくても、他の人が自分と同じクオリティの料理を作れる」ことなんです。そのために、営業時間は必ずキッチンにいて、お客様に提供する前に料理の盛り付けなどをチェックするようにしています。ミシュランで星をとるようなレストランのシェフも、必ずキッチンにいますからね。自分が考えたメニューなので、自分がおいしく作れるのは当たり前。レストランの客席を一人でみることはできないので、若い子たちがクオリティの高い料理を作れるように指導するのも自分の役目だと思っています。
そうやって料理のクオリティを維持し続けているんですね。ただ、お客様と直接関われないのは大変そうです。
そうですね、なのでサービスマンのことはリスペクトしています。レストランはクローズドキッチンなので、お客様に料理を届けるのはシェフではなくサービスマンの仕事です。若い子たちにも「サービスマンの声はお客様の声。自分たちが直接お客様の声を聞けないからこそ、サービスマンの意見は必ず尊重するように」と教えています。また、自分たちの料理を預けるわけなので、サービスマンの言葉使いや態度にも厳しくなりますね。普段からできないと、お客様の前でも場に合わない態度をとってしまう。もちろん、サービスからの要望もあるので、お互い話し合いしつつ、よりお客様に満足してもらうための雰囲気作りをしています。シェフもサービスも重きをおくところが違うだけで、お客様にいい思いをしてもらいたい、という気持ちは一緒なんです。
THE GRAND GINZAの心地よさの秘密が垣間見えました。レストランは毎月メニューが変わりますが、どうやって考えているんでしょうか?
食事を愉しんでいただきたいので、一度決めたメニューを変えることもあるし、メニュー名は興味を持ってもらえるようなものを考えます。例えば、メニュー名に「鹿児島県産カンパチ」と書くのではなく「鹿児島県産かのやカンパチ」というその場所で有名な地元ブランドを記載したり、北海道の「ごっこ」という魚を使ったり。メニューを見たときに「これなんだろう?」と興味を持ってもらえるようなネーミングを考えています。ただ、メニューを見たときになんだか分からない、というのも嫌なので、ある程度どんな食材を使った料理かぐらいはわかるように工夫しています。あとはおいしいのはもちろんですが、食べるシーンによって調理方法を変えています。自分はアフタヌーンティーのセイボリーも担当していますが、本当は固めたくないけど、食べやすさを考えてゼリー状にした方がいいな、という場合もありますね。アフタヌーンティーはおいしさ、食べやすさ、見た目の華やかさと優先すべきものが多いので、シェフの腕の見せ所でもあります。
THE GRAND 確かに興味をそそるメニューが多く、どれもおいしそう。滝田シェフのフレンチへのこだわりや想いってなんでしょうか?
何より「食べた人に喜んでほしい」それしか考えてないですね。お客様には、目の前に料理が運ばれてきた時に「きれい」と一緒に「おいしそう」と思っていただきたいんです。そのためシンプルな飾り付けにこだわってますね。真ん中に寄せるものは真ん中に寄せる、忙しい時こそ丁寧に飾り付けて、自分がおいしそうと思えるものをお客様に提供しています。まぁ、おいしいのは正直当たり前なので、食材のよさを十二分に引き出しつつ、飾り付けまで手を抜かない、それがこだわりですね。また自分はレシピを作るのがあまりすきではないのですが、なぜかというと、レシピ通りに作ればいいやって思う人がいるからです。料理さえ作ればいい、レシピ通りに作ったから問題ないでしょってなってしまうと、食べる人のことを考えなくなる。食べる人のことを考えない料理はおいしくないし、そうなったら料理人の終わりだと思います。仕事と料理を分けて考える料理人もいますが、料理のことになるとスイッチが入るというか、俳優とかプロ野球選手と同じですかね。わざわざお金を払って料理を食べにきていただいているので、味には妥協してはいけない、そこは探究し続けています。また最近はアレルギーの方も増えているので、安心・安全、それに衛生面にも配慮して、みんなが食事を愉しめる空間作りにも気を配っています。
THE GRAND 料理を通じて、一人ひとりのお客様と向き合っているんですね。食べる人のことを考えてメニューを決めたり、飾り付けをしたり。今でも十分魅力的ですが、今後こうしたいという想いはありますか?
フレンチには、おしゃれと同時にかしこまったイメージがあります。なので、ランチはよりフレンチを身近に感じてもらえるような親近感のある場所に、反対にディナーはもう一度来たい、と思っていただけるような特別感をもっと演出していきたいですね。銀座という場所には数々の老舗や名店があるので、どうしてもいろいろなお店に行ってみたくなる。特に記念日やお祝いなど、特別な日に使うとなると年に何回もあるわけではないですよね。その中で、あのお店よかったからもう一回行こうか、となってもらえるような場所にしたいです!例えば、THE GRAND GINZAでは、マキシム・ド・パリでも出されていた苺のミルフィーユを提供しています。これは「昔食べた苺のミルフィーユの味が忘れられない」というお客様からの声がきっかけでした。今はアニバーサリーコースのデザートで、苺のミルフィーユをハート型にして提供を始めました。お客様の声を反映しつつ、THE GRAND GINZAならではの味でもっと盛り上げていきたいと思っています。